検事総長に次ぐ法務・検察ナンバー2だった黒川弘務・元東京高検検事長が、賭けマージャン問題で一転起訴された。検察審査会が重視した「検事長としての立場」を踏まえた対応だったが、告発した市民団体は公開の正式裁判が開かれない略式起訴とした検察の判断を疑問視した。
「被告黒川の立場などを考慮し、起訴すべきものと判断した」。東京地検の山元(やまもと)裕史・次席検事は、18日の会見でそう述べた。記者ら3人を再び不起訴としたことについては、「必要な捜査をし、改めて4人の関係性などを考慮した」とした。
約8カ月前の昨年7月、前任の斎藤隆博・次席検事(当時)は黒川元検事長を不起訴にした理由を「賭博罪は公務員だから重く処分する犯罪類型とは規定されていない」と説明していた。しかし、12月の検審の議決書は、黒川氏の処分を判断するうえで重要なのは「検察官として刑罰法規をよく承知しているうえに、東京高検の長という重責にあったこと」と強調。身分犯ではないという検察の主張は「的外れだ」と退け、黒川氏は「起訴相当」、記者らは「不起訴不当」と差をつけた。
黒川元検事長らの不起訴は、証拠が足りないという嫌疑不十分ではなく、犯罪の成立は認めたうえで悪質性などを鑑みて起訴を見送る起訴猶予だった。検察幹部は「罪を証明する証拠が十分でない嫌疑不十分を覆して起訴はできないが、今回は起訴猶予。検事長という属性で起訴を求める市民感覚は重く受け止めるしかない」と起訴に転じた理由を語った。
ただ、公開の法廷での裁判を請求する正式起訴ではなく、非公開の書面審理で簡易的に処理する略式起訴とした。山元次席検事は会見で「同種事案と比較して略式が相当と判断した」と説明。単純賭博罪の法定刑は50万円以下の罰金か科料で、勤務中に職場で賭けマージャンをした警察官や消防隊員が同罪で略式起訴され、罰金10万円の略式命令を受けた例が過去にある。
黒川元検事長の不起訴を維持した場合は、検審が2回目の審査を行い、再び「起訴すべきだ」と議決されれば検察官役の指定弁護士が強制起訴し、正式裁判が開かれる可能性があった。告発した市民団体「検察庁法改正に反対する会」の岩田薫代表は「市民の視点が司法の場に届いた」と起訴を評価する一方、「公開の裁判が開かれないのは残念。身内をさらし者にする強制起訴は避けたかったのだろう」と語った。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル